日本財団 図書館


 

このケースを引き受けた児童相談所は、国際間で要保護児童の身柄引き渡しなどについて取決めがないため、行政面で色々と苦労があったと聞いている。X国と日本政府機関で子どもたちの移送をめぐって交渉が難航し、結果的に一時保護が長引いた。現在の児童福祉法では国際間のケースの移管について何ら規定されていない。児童の権利と福祉を守る視点から、法制度への働きかけを積極的に進める事もソーシャルワーカーの責任のひとつと考えている。ISSJはX国と児童相談所の窓口になり、相互の情報を交換しつつ、X国と児童相談所がスムーズに仕事が出来る様配慮した。その過程で寺秘義務の問題など、苦慮する事も度々あったが、ISSJは児童相談所との信頼関係で乗り切ることが出来た。
[事例5. フィリピン国籍児の本国送還ケース]
わが国には在日フィリピン人女性が出産後不法滞在の摘発を恐れて出生届けを出していなかったり、国籍取得ができていない子どもが増加している。中には乳児院から養護施設に移り、学齢期を迎えている子どももかなりいると思われる。フィリピン政府はフィリピン人女性が出産した未就籍児は全てフィリピン国に送還してほしいと希望している。
このケースはISSJが送還手続きをとった後、フィリピン国籍兄姉弟(3歳、2歳)をフィリピン大使館員の付き添いで送還したものである。
2人の子どもたちの実母はフィリピン国籍であるが、昨年3月、日本人男性との間に3人目の男児を出産した。しかし出産直後この母子は死亡した。フィリピンに住む子どもたちの祖母(フィリピン国籍)は、二人の子どもに心を残して亡くなった実娘の気持ちを思い・強い引取りの要請がフィリピン大使館を通じてISSJに寄せられた。そこでISSJはDSWDと連絡を取り、フィリピン国ではDSWDによる祖母の家庭調査、わが国ではISSJによる子どもたちの児童調査を行なった。その結果子どもたちがフィリピンの祖母の元で生活するのが、現状ではベストであるとDSWDとISSJが確認の上送還した。こうした送還ケースは通常実親や実親の関係者が送還のためにフィリピンまで付き添うが、実母が死亡していることもあり、フィリピン大使館員が付き添って送還した。その後ISSJは送還後の児童たちの適応はよいとDSWDから報告を受けている。
今後は実母と死別し、その上突然に異文化環境に接しなければならなかった子どもの負担が大きくならないよう、DSWDと協力して見守っていかねばばならない。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION